「月刊高校教育」6月号


皆さんこんにちは。今回は「月刊高校教育6月号」に掲載されました本校の取り組みとスクールポリシー策定に向けての文章を紹介します。
Co-Agencyを形成し、探究学習を中心にしたキャリア教育推進を基盤に

中央教育審議会答申から  

 第10期の中央教育審議会答申では「高校生の学習意欲を喚起し、可能性及び能力を最大限に伸長する」ために、2022年度の新学習指導要領の実施にあわせて、学校の設置者が各学校の存在意義や社会的役割等を明確化したスクール・ミッションを定め、それに基づいて各学校がスクール・ポリシーを策定・公表することとしている。この背景には、高校生、中でも普通科で学ぶ生徒の学校生活への満足度や学習意欲が低く、可能性や能力を十分に引き出せていない現状への強い問題意識がある。

 筆者が勤務する若狭高校においても、普通科で学ぶ生徒の学習意欲の喚起は長年にわたる課題である。本校は全日制4学科(普通科・理数探究科・国際探究科・海洋科学科)と定時制普通科を持つ地域の総合高校であり、医師を目指す生徒や漁師を目指す生徒など多様な生徒が互いに認め合い学び合うことを通して教育目標である「異質のものに対する理解と寛容の精神」を養っている。その中で定員の半数強を占める普通科については、とりあえず合格を目標としてきた生徒が一定数存在し、入学後目標を見失い学習へのモチベーションが上がらないことが多い。

 また、普通科の保護者からは本校の進路指導に対して、「偏差値偏重の指導で本人の希望を尊重してくれない」といった意見や「専門学科と比べて探究学習への取り組みが弱く、海外との交流や各種コンテストへの参加など学びの機会も少ない」といった意見が寄せられている。さらに、本校は教員の入れ替わりが多く、若手教員が全体の3分の1を占めるため、授業力やクラス経営力が常に課題となっている。こうした多くの課題の解決と働き方改革の推進のために、2年間校長として取り組んできた改革について述べ、そこを手がかりにスクール・ミッション/ポリシー策定への道筋を考えてみたい。

キャリア教育の推進――「指導」から「支援」へ  

 改革を進める鍵はキャリア教育の推進である。そのためにはまず教職員の意識を変える必要があり、有識者を招いてご講演いただくとともに教職員に「指導」から「支援」へと発想の転換を求め意識改革と共通理解を図った。

 次に校務分掌を見直し、従来の部長中心の部署体制から学年主任中心の学年会体制へと組織改革を行った。これにより、各学年の担任が主任を中心にまとまって執務し、学年会として生徒を支援する体制が整った。合わせて部署の見直しも行い「生徒指導部」を「生徒支援部」に、「進路指導部」を「キャリア・サポートセンター(CSC)」に変更して、校則改正や進路支援方法の見直しなど業務の見直しを進めることとした。

 こうした改革により、教職員の生徒に対する接し方が大きく変化した。昨年の3ヶ月に及ぶ休業期間中は、4月当初より担任が毎朝オンラインでSTを行い、健康チェックと学習支援、悩み相談を行いきめ細かく生徒を支援するとともに、悩みを抱える保護者との懇談も丁寧に行い、生徒、保護者の支援に努めた。

 学校再開後も、担任は毎月面談を行い、一人ひとりの生徒の思いや考えにじっくり耳を傾け将来を一緒に考えていくとともに、学習状況や学力の定着度を把握し個別に目標を設定して、学習意欲と学力の向上を図るようになった。また、学年会で情報を共有することにより、各クラスの課題などについて共通理解がすすみ、教科担任と協力して生徒の意欲を喚起する授業をデザインすることが可能になった。

 本校では2014年から組織的に授業改善に取り組み、「探究的な学び」をテーマに生徒が主体的に学びに向かう授業の在り方を研究している。研究手法としては、若手教員の授業力向上を目的とする「若手授業力向上塾」と全教職員が互いに授業を見合う「互見授業」とを両輪とし、研究協議を通して授業の悩みや工夫を共有している。また、各教科でも教科会で単元の目標や教材・活動デザイン、評価方法等について検討を重ね、チームとして授業改善を進めている。こうした授業改善への取り組みに学年会という新たな視点が加わることにより、一人ひとりの生徒への学習支援が充実し、学習意欲の喚起と学力の定着・向上を図れるようになってきたのである。 

 このように丁寧な生徒支援を行うためには、そのための時間の確保が必要である。そこで昨年度から週35時間行っていた授業を33時間へと削減して生徒、教員が主体的に活用できる時間を確保した。懸念された学力や進学実績の低下は見られず、昨年度の進学実績は過去10年間の実績を上回るなど成果が上がっている。生徒の学習意欲を喚起し、能力を引き出すための一つの解決策は、担任が生徒に寄り添い、生徒とともに将来を考えていくことに加え、教科担任が個々の生徒の学力や学習状況に応じて授業を工夫改善し、学力の定着と向上を図っていくことにある。

探究学習の推進  

 本校はSSH研究指定とOECDイノベーションスクールネットワーク(OECD.ISN2.0)研究指定を受けており、全校で探究的な学びに取り組んでいる。ただし、専門学科に比べて普通科の探究学習の時間が少なく、各クラスの担当も担任と副担任だけであったため、探究学習が深まらず改善を図る必要に迫られていた。

 そこで、昨年度から2年普通科の担当を各クラス1名増やすとともに、修学旅行を探究学習を目的とする研修旅行(アメリカ・シンガポール・台湾・国内の4コース)に変更した。さらに令和4年度から普通科の探究の時間を増やす方向で検討を進めている。 

 研修旅行の実施にあたっては、現在海外への渡航が出来ないため、クラス毎に県内外の高校や大学、研究機関を訪問し探究学習の成果発表や意見交換を行うこととした。この結果、生徒の探究学習への意欲が高まり、研修旅行は中止せざるを得なかったものの、県内外の高校や大学とオンラインでポスター発表や意見交換を行い学びを深めることができた。  

 SSH指定校として、本校では1年次に学校設定科目「基礎科学」において実験中心の授業を行い、科学的なものの見方や考え方を育成するとともに、身近な地域資源をテーマとする探究学習に取り組んでいる。そして、地域の行政や住民、大学の研究者などからアドバイスを受ける「地域の方から学ぼう(年3回)」の実施や海外の連携校と共同でマイクロプラスチックに関する研究を行うなど、地域を拠点に国内外にカリキュラムを開き、「開かれた学校」づくりを進めている。

 その中で特に重視しているのが、生徒が「我がごと(自分事)」として課題を設定し、様々な方のアドバイスを受けながら解決策を考えていくことである。研修旅行の実施により、生徒の探究学習への意欲が高まり、「我がごと」として取り組む生徒が増えていると実感している。   

 さらに、昨年度の進学実績から、探究学習への主体的な取り組みが教科学習への意欲喚起や学力の向上、キャリア形成に効果があることが明らかになってきた。昨年度3年生の進路支援に際し、担任は生徒と繰り返し面談を行い生徒の夢や希望を尊重して出願先を決定した。その結果、従来を大幅に上回る100名以上の生徒が学校推薦型選抜入試と総合型選抜入試とにチャレンジし半数超が合格した。合格した生徒の多くが、探究学習への取り組みが評価されたと述べている。探究学習を通して生徒の興味関心が焦点化され、大学で学びたいことや将来の夢について具体的に語れる生徒が増えているのである。 

 一般入試においても、例年以上に2次試験で逆転合格する生徒が多かった。担任、教科担任の丁寧な進路支援と探究学習を通して身に付けた資質・能力とが生徒の自信や意欲につながり、希望進路の実現に向けて粘り強く学び続ける生徒が増えたことがその要因である。

「Student Agency」の育成

  生徒が探究学習で身に付ける資質・能力については、SSH指定校として「科学的なものの見方や考え方」の育成を目指すとともに、OECD.ISN2.0指定校として「Student Agency」の育成を目指している。Student Agencyとは、「主体的に考え、行動し、責任を持って社会改革を実現していく意志や姿勢」を意味する、OECDが2030年に向けて世界の子どもたちに育もうとしているコンピテンシーである。

 OECDはそうした生徒の育成を支援するコミュニティー(Co-Agency)の育成も目指しており、そこには教師や保護者はもとより地域住民や産業界などまさにスクールポリシー策定への参画が求められているステークホルダーが含まれている。
 本校では、昨年度からこのStudent AgencyとCo-Agencyの育成を努力目標に掲げ実現を目指している。また、昨年度から高校入試において新たに自己推薦入試を導入し、受験者に対して「自ら課題を設定し、他者と協働して解決策を考え、より良い社会を実現する志を持つ者」という資格要件を示して「探究的な学びを通してStudent Agencyを発揮していく生徒」を求める入学者の受け入れに関する方針を発信している。

 地元小浜市はじめ近隣の各自治体からは、こうした本校の探究学習への取り組みやAgencyを発揮する生徒の姿が「小中学校のロールモデル」として高く評価されており、今年度から福井県嶺南地域全体で小中高が連携してふるさと教育や探究学習に取り組んでいくことになっている。

スクール・ポリシー策定に向けて

 生徒の学習意欲を高め可能性や能力を引き出していくためには、担任、教科担任を中心に全ての教員が一人ひとりの生徒に寄り添い、夢や希望の実現を支援するキャリア教育の推進が重要である。その鍵となるのが探究学習であり、その充実には保護者や地域住民など多様な人々が協力して生徒を支援するコミュニティー(Co-Agency)を形成していくことが欠かせない。

 今後取り組むスクール・ミッション/ポリシーの策定に際しても、学校を取り巻く多様な人々との協力関係を構築し、Co-Agencyを形成して様々な観点からご意見をいただきながら、キャリア教育を基盤に生徒の可能性や能力を最大限伸長できるよう教育活動の不断の改善を図り、生徒や保護者、地域から信頼される学校づくりを進めていきたい。