
学校長あいさつ
福井県立若狭高等学校 校長就任のご挨拶
~若狭から、未来を創る 地域とともに、世界とともに~
若狭高校のホームページをご覧くださっている皆様、日頃より本校の教育活動にあたたかいご理解とご支援をいただいておりますこと、心より御礼申し上げます。
令和7年4月、このたび福井県立若狭高等学校の校長を拝命いたしました渡邉久暢(わたなべ・ひさのぶ)です。
◆ 自己紹介
私は本校第38回卒業生、33HR出身です。
福井大学を卒業し、1991年に若狭高校に初任で赴任して以来、「34HRのAD」として、「HR制廃止後の学校行事の根幹を作る生徒会担当」として、「定時制における総合的な学習の推進リーダー」として、さらに直近では「探究的な学習を推進するSSH・研究部長」として、通算26年間、若狭高校の教育の発展に尽くしてきました。
2021年以降は、藤島高校教頭、県教育庁高校教育課参事(高校改革)、福井大学客員准教授など、多角的に教育を見つめ直す機会をいただいてきました。そして今、再び母校である若狭高校に戻ってこられたことに、深い縁と使命を感じています。
◆ 若狭高校の教育目標に立ち返る
本校は、小浜藩校である「順造館」を始まりとし、1897年(明治30年)を創立の年と定め、創立128年目を迎える有数の歴史と伝統を誇る学校です。卒業生は3万人を超え、その卒業生の誰もが「異質のものに対する理解と寛容の精神を養い、教養豊かな社会人の育成を目指す」という本校の教育目標を大切に心に刻んでいます。
この言葉に私が心から共感するのは、教育とは単に知識や技能を習得する営みではなく、「他者と共に生きる力」を育てるものであると考えるからです。私たちが生きるこの社会は、多様な価値観と文化が交差し、変化し続けています。その中で必要とされるのは、対話し、違いを受け入れ、協働して新たな解を見出す「人間としての成熟した力」です。
この教育目標は、定時制・全日制を問わず、本校の全ての教育活動の根幹にあります。そして、この精神を踏まえ、2025年度から新たに策定されたスクールミッションは、私たちの学校の進むべき方向を明確に示しています。
◆ 若狭高校スクールミッション2025 ~定時制・全日制の方向性~
【定時制】
異質のものに対する理解と寛容の精神を育むため、地域の自治体や関係機関と連携した支援体制のもとで、生徒一人ひとりの生活スタイルや多様な学びのニーズに応じた教育活動を推進し、社会的・職業的自立を支える資質・能力を培うことを通じて、教養豊かな社会人を育成し、地域社会の持続的な発展に貢献する。
【全日制】
異質のものに対する理解と寛容の精神を育むため、生徒同士の多様な交流や地域と世界をつなぐグローカルな対話を促進し、教科学習のさらなる充実と「地域資源活用型探究学習カリキュラム」の発展による課題研究の高度化を通じて、教養豊かな社会人を育成し、地域社会はもとより国際社会の持続的な発展にも貢献する。
このスクールミッションは、単なる理想ではありません。2025年策定の「福井県教育振興基本計画」と連動し、「ウェルビーイングの実現」「社会に開かれた教育課程の推進」「探究の深化」「地域社会の発展に貢献」「グローバルリーダーの育成」など、時代の要請に的確に応える構想です。
このスクールミッションを羅針盤として、生徒自らが問い、学び、社会とつながる力を育む教育を、保護者の皆さま、地域の皆さまと共に着実に進めてまいります。
◆ 若狭高校の「探究」とは何か?
若狭高校は、地域社会・世界と密接につながりながら学びを創る「探究の学校」です。SSH指定校としての取り組みは令和6年度から第III期に入り、「国際的な科学技術イノベーターを育成する『地域資源活用型探究学習発展カリキュラム』の開発と評価」というテーマの下、以下のようなプロジェクトを推進しています。
- 教科学習の充実に向けた授業改善の推進
- 里山里海湖の自然資源・熊川宿等の文化資源・原子力発電所等のエネルギー関係資源など、地域資源の活用による、学校設定教科「探究」のプログラム開発
- 情報活用能力の育成に資する、学校設定教科「情報」のカリキュラム開発
- 海外連携校(アメリカ「マーセッドカレッジ」・台湾「暖暖中等教育学校、台湾海洋大学」・フィリピン「デ・ラサル・リパ高校」)との協働
- 福井大学・福井県立大学・横浜国立大学との連携
- 若狭地域の小中高一貫カリキュラムの構築による教育の地域循環化
こうしたプロジェクトは、生きる力の育成につながるのはもちろん、生徒の希望進路実現にも直結しています。なぜなら、学校設定教科「探究」等を含む教科学習で育まれる「主体性」「課題設定・解決力」「構想力」「表現力」は、大学入試における学校推薦型・総合型選抜においても極めて重視される要素であるからです。
これまで本校は国公立学校推薦型、総合型選抜合格者数においては、6年連続福井県立高校トップという成果を生み出してきました。京都大学、大阪大学、神戸大学、慶應大学等の難関大学における学校推薦型、総合型選抜入試でも、これまで多くの生徒が合格を勝ち取ってきています。令和7年度入試では福井大学医学部医学科の学校推薦型選抜入試で4名の合格者を輩出するなど、地域医療人の育成にも貢献しています。
◆ 「ふるさとを捨てる学力」から「ふるさとを創る学力」へ
私は、この若狭という地域で、『村を育てる学力』(1957)を著した東井義雄先生の言葉を幾度となく噛み締めてきました。この書の中で東井先生は「村を捨てる学力」ではなく「村を育てる学力」の育成を目指すべきだと提唱された上で、
・教育の目的は、生徒個人の「立身出世」に資するために行うのではなく、生徒一人ひとりに「自らの共同体を愛し、その未来を創造する力」を育てることにある
・生徒自身が「なぜ学ぶのか」という問いを内面化することが重要である
と述べています。
若狭高校の「地域資源活用型探究カリキュラム」は、生徒がふるさとの現実に向き合い、その魅力と課題の両方を学びの素材として捉えるものです。そして、外に出ていく力だけでなく、地域を愛し、再び地域に還る力をも育んでいく。それが本校の目指す「ふるさと未来創造教育」です。
◆ 教養とは何か ― 他者とともに未来を築く力
若狭高校の教育目標にある「教養豊かな社会人」とは、単なる博識な人物を指すのではありません。
本校が育てたいのは、異なる背景をもった他者を理解し、協働できる力を備えた人です。
それは、共通点を前提とした協調ではなく、違いを前提にした共生であり、社会を創る市民としての成熟でもあります。
AIやテクノロジーの進展によって、知識を持っているだけでは意味を持たない時代がすでに到来しています。
必要とされるのは、知識を価値に変え、他者と共有し、より良い未来を構想していく「教養の実践」です。
◆ 社会とともに歩む学校へ
これからの学校は、もはや“閉じた学びの場”ではありえません。学校は地域とつながり、社会と対話し、未来をともに構想する「共創の場」となっていくべきです。
そのために、次のような連携を一層推進してまいります。
- 地域の企業・NPO・自治体との連携協定
- 保護者・卒業生・地域住民との教育対話の場
- キャリア支援(CS)とライフデザイン教育の統合
- 地域ぐるみの学校運営参画(地域学校協働活動)
若狭高校が「地域の未来にとって必要な存在」であり続けられるよう、教育の枠を越えて、社会的価値を生み出す学校経営をめざします。
◆ ウェルビーイングのための組織づくり ― 教育の質は環境がつくる
最後に、学校経営の重要基盤として、私は「教職員のウェルビーイングの確保」を強く意識しています。
- 業務の見直しと分掌の再編
- ジョブローテーションによる視野拡大
- 生成AIやICT活用による教材・事務の効率化
- 教科横断的なチームティーチングの促進
- 多様な評価観の共有と学び合い
これらの取り組みを通じて、教員が「目の前の生徒に集中できる環境」を整えます。
そしてその先に、「生徒のウェルビーイングの実現」があります。
教職員が支え合いながら、創造性を発揮し、互いの強みを活かし合うチームであれば、生徒もまた安心して挑戦し、自らを高めていくことができます。
◆ 結びに ― 若狭高校は、これからも「人が育つ希望の場所」でありたい
若狭高校は、生徒一人ひとりが自らの可能性に気づき、仲間と支え合い、そして社会とつながりながら成長していく「人生の基盤」となる学校です。
これからも、教職員と地域、家庭、そして生徒自身が手を携え、「若狭高校で学ぶことの意味」を問い続けながら、未来を拓いてまいります。
地域の皆さま、保護者の皆さま、卒業生の皆さま、どうか本校のこれからの挑戦に、引き続きのご理解とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
令和7年4月 福井県立若狭高等学校 校長 渡邉 久暢