卒業式 校長式辞

春の訪れというにはまだ少し肌寒く感じますが、桃の節句を迎え、木々の蕾も我先にと大きく膨らむ季節を迎えました。今日の良き日に、小浜市長杉本和範様を始め、ご来賓の皆様方、並びにご家族の皆様の御臨席を賜り、ここに令和6年度第76回卒業証書授与式を挙行できますことに、心より感謝申し上げます。ただいま、卒業証書を授与しました。全日制260名、定時制5名、計265名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。ご家族の皆様におかれましては、心よりお祝い申し上げますとともに、今日までのご支援、ご協力に教職員一同、厚く御礼申し上げます。
卒業生の皆さんは今、本校での3年間を思い起こし、思い出に浸っていることと思います。研修旅行で自然や文化を体感したこと、体育祭や文化祭で色やクラス一丸となって取り組んだこと、部活動で仲間と共に喜びや苦しみを分かち合ったこと、そして、試験前に必死で勉強したことなど様々な場面が頭の中を駆けめぐっているでしょう。いずれの行事でも、卒業生の皆さんが中心となり、在校生の手本として本校を盛り上げてくださいました。また、運動部文化部を始めとする部活動でも、見事な活躍を見せてくれました。皆さんが残してくれた成果は、在校生が引き継ぎ、さらに育んでくれるものと期待しております。
さて、皆さんの座っているこの体育館の前方左上に掲げてある額をご覧ください。この文字の事については、一度、皆さんにお話ししたことがあると思います。これは孔子の論語の一節で「恭寛信敏恵(きょうかんしんびんけい)」と記されています。「恭」は、礼儀正しく、何ごとにも丁寧に対応すること。「寛」は、他人の失敗を許し、寛大な広い心を持つこと、「信」は、互いに信じ合えるよう、約束したことは守ること、「敏」は、言われたらすぐに行動し、明るく受け答えすること、「恵」は、いいことは出し惜しみせず、人に分け与えること。それぞれの文字には、このような意味があることをお話ししました。世界は今、格差や人権、経済や環境問題など、大きな課題が山積しています。さらに、ICT技術やAIの進歩・発展により、変化の先を予測することが困難な時代になってきています。皆さんはこれから、このような時代を生きていくことになりますが、これまで、社会に出るための準備となる学習を皆さんはしっかりと積んできました。進学してさらに研鑽を積んで進路を選択していく人、社会人として頑張っていく人、自分の夢を叶えるために資格や試験に向けて努力を続ける人、それぞれの道は違いますが、いよいよ新たなステージで、主体的に考え、行動し、自立していく時を迎えたのです。この「恭寛信敏恵」にあるように、これから迎える場面において、次世代を生きるリーダーにふさわしい資質と能力を磨いていってほしいと願っています。
また、皆さんは「ワールドカフェin若狭」と銘うち、対話を大切にした新しい学校行事をスタートさせてくれました。これからダイバシティが進む未来では、今の世界を脅かしているような、力のバランスによる解決ではなく、国籍や人種、宗教などに対する偏見を持たずに、相手をリスペクトする心と、困難な対立にも「対話」による解決を見つける力が大切になります。国と国との関係も突き詰めれば人と人との関係と同じです。人と人が分かり合えるために、「対話」こそが唯一の手段です。皆さんには「尊敬と対話」を胸に、よりよい社会づくりに貢献できる人となってくれることを強く望んでいます。
今年の1月1日付の新聞に於いて、2050年の福井の未来の記事が掲載されていました。25年後には福井県の人口は現在の73万人から57万人に減少するとのことでした。これは今の人口の4分の3という数字で、若狭高校の近隣市町村では21%から50%近い減少が見込まれています。人口流出に歯止めをかけるには、若者が地方での仕事や生活に魅力を感じること、若者が興味を持って学び、続けられる機会を作り、チャレンジを後押しする文化を醸成することがカギだそうです。また、一方では、ずっと若者が地方にとどまるより、一度は県外に出て、知見を蓄えて戻ってくる社会を目指すべきという意見もあるようです。まさに進学や就職などで皆さんを送り出す我々にとっての一つの夢の形です。人の循環によって、地域の魅力がさらに増す、そのような福井・若狭の訪れを期待したいと考えています。
本校のサバ缶を国際宇宙ステーションで食べてくださった日本人宇宙飛行士、野口聡一さんの宇宙船は「レジリエンス号」です。レジリエンスとは、「困難な状態から立ち直る」、「形が変わってしまったものを元通りにする」という意味です。この若狭高校ではぐくまれた皆さんの「探究心」で、これからの時代に目標に向かい、幾度の失敗をしたとしても、あきらめることなく、希望をもって行動を起こしていくような、レジリエンスなチャレンジを応援しています。
終わりになりましたが、保護者の皆様に改めてお祝いを申し上げますとともに、卒業生の皆さんの、ご健康とご活躍、そしてご多幸を、心から祈念いたしまして、式辞といたします。
令和7年3月3日
福井県立若狭高等学校 校長 橋本有司
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